東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1818号 判決 1961年6月05日
控訴人 合名会社 金子染工場
被控訴人 日本電信電話公社
訴訟代理人 館忠彦 外三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、原判決をとりけす、被控訴人は控訴人にたいし金百七十六万五千三百二十九円およびこれにたいする昭和三十二年四月二十一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決をもとめ、被控訴代理人は控訴棄却の判決をもとめた。
当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否はつぎのとおりつけ加えるほか原判決の事実らんにしるすところと同じであるからこれを引用する。
(控訴人の主張)
控訴人が本件電話の架設場所変更の届出を東京中央電話局長にしたのは、控訴人の住所である清算事務所の移転にともない必然に生じたことであつて、かかる場合は旧電話規則第九条第二項但書による「特別ノ事情アリト認ム」べきもので当局は電話加入申込登記順位の繰下げの扱いをしてはならぬものと解すべく、また実際上そのように取扱われていたのである。しかるに当局において調査の粗漏により控訴人が真実住所の変更をしたここを確めず繰下げの処分をしたのは違法である。
(被控訴人の主張)
みぎ控訴人の主張はこれを争う。なお旧電話規則第九条第二項但書の「特別ノ事情」の有無に関する認定は所轄通信局長が自由にこれを認定することができるいわゆる自由裁量行為であつて、加入申込者においてその認定に関し不当を主張することのできないものであるからこの点に関する控訴人の主張は失当である。
理由
当裁判所は控訴人の本訴請求を棄却すべきものと判断するものであつてその理由は、原判決の理由としてしるすところを引用するほかつぎのとおりつけ加える。
(一) 原審証人堀憲三郎の証言によると、控訴人は昭和十一年十二月ごろ本件電話の架設場所を東京都中央区銀座二丁目二番地ノ四越後屋ビル内に変更する旨東京中央電話局長に届出たところ、同局では係員の田村某および堀憲三郎がそのころ三回にわたり訴外会社の実情調査のためみぎ越後屋ビルに赴いたけれども控訴会社清算事務所を確認できす、その後に書面をみぎ事務所宛発送したが返信を得なかつた事実を認め得べく、したがつてこの点につき前記電話局長が旧電話規則第九条第二項但書の「特別ノ事情」の有無について調査を尽さなかつたといいがたいのみならず、同証言によると、昭和十一年ごろ控訴人主張のような住所の変更にともない電話架設場所の変更が届出られた場合通例前記電話規則条項の「特別ノ事情」あるものとして取扱われていなかつたことを認めることができる。
(二)、なおみぎ電話規則第九条第二項但書の「特別ノ事情」の有無の認定は被控訴人主張のとおり当時の所轄行政庁である東京逓信局長の自由裁量による権限内の事項と考えられるところ、控訴人の本件電話架設場所変更について東京逓信局長がみぎの「特別ノ事情」がないものと認めたことについていちじるしくその裁量を誤つたことを認めるにたる証拠はない。
(三)、原判決理由に示すとおり前記電話規則第九条の規定するところによると電話架設場所の変更届出があれば、特別の事情がない限り、従来の開通順位は当然に繰り下げられるので、そのために特に行政処分を必要とするものでなく、かえつて所轄行政庁において「特別ノ事情アリ」と認めた場合はみぎ繰下げられた順位を訂正しもとの順位に止める処分をなし得るものと解するのが相当である。よつて控訴人が、みぎ電話規則にもとずく所轄行政庁の順位繰下処分なる手続があるものと、本件において同局長がみぎ繰下げ処分をしたことが不法行為であると主張するのはそれ自体失当たるをまぬがれないが、かりにみぎ主張を、控訴人が電話架設場所の変更届出をしたことによりいつたん繰下げられた開設の順位を特別の事情があるとして原順位にもどすことをしなかつた不作為を違法なりと主張するものと解するとしても、原判決理由ならびに前記(一)および(二)に説示したとおりの理由によつてみぎ不作為を違法と目することのできないことがあきらかであるから控訴人の第一次の請求は認容に由ないところである。
すなわち原判決は正当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 牧野威夫 谷田茂英 満田文彦)